珍しくない不妊症

不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊することなく通常の営みをしているにも関わらず、ある一定期間(一般的には1年間)妊娠の成立をみないことを指します。女性側に原因がある場合が35%、男性側に原因がある場合が30%、両者によるものが20%、原因不明が15%といわれています。不妊症のカップルは10組に1組と決して少なくありません。

甲状腺ホルモンと妊娠

妊娠成立に重要なホルモンの主役はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンですが、甲状腺ホルモンも大いに関与していることが分かってきました。甲状腺ホルモンは高すぎても低すぎても何らかの月経異常をきたすことは知られていましたが、子宮内膜にも直接働き、妊娠成立に必要不可欠な卵子の着床に深く関わっていることが明らかになったのです。

甲状腺ホルモンの役割

甲状腺疾患と不妊との関係

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」では、不妊症の数パーセントにこの病気が関わっているとされます。また、亢進症とは反対に甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」でも、月経異常や性欲低下などが生じ、不妊になるといわれています。

さらに、「潜在性甲状腺機能低下症」といって、甲状腺ホルモンは正常でありながら、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い状態の場合も、不妊と関係があると報告されております。

そのほか、甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗サイロイドペルオキシダーゼ抗体)が陽性であることが、不妊のリスク因子であるとも報告されました。「橋本病」では、これらの自己抗体が上昇し、陽性になる恐れがあります。

「潜在性甲状腺機能低下症」や自己抗体のみ陽性の方はほとんど自覚症状がなく、甲状腺に関わる数値の異常に気づきにくくなっています。そのため、これまで原因不明の不妊症に分類されていた方の中に、甲状腺刺激ホルモンや自己抗体に異常があって妊娠が叶わなかった方が、少なからず存在した可能性は否定できません。

妊娠成立

甲状腺ホルモンからみた不妊症の治療

対外受精(IVF)などの生殖補助医療(ART)を行う場合、自然な排卵周期よりも多くの甲状腺ホルモンが消費されます。このため、ART実施予定の不妊症女性の方は、スクリーニングで甲状腺機能検査と甲状腺自己抗体を測定します。TSHが一定値以上上昇している場合には、甲状腺ホルモン剤を補充することによって、妊娠が成立するカップルを多数経験しております。

また、甲状腺ホルモンは、妊娠成立後にも適切にコントロールすることが重要です。そのためには、産科医と内分泌科医の密接な連携が重要なことはいうまでもありません。

掲載日:2024年8月28日