糖尿病の新薬「GLP-1受容体作動薬」

多様な血糖改善作用のある「GLP-1」

「インクレチン」とは、小腸などの消化管から分泌されるホルモンの総称で、すい臓からのインスリン分泌を促進する働きをします。インクレチンには、小腸上部から分泌されるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)と、小腸下部から分泌されるGLP-1(glucagon-like peptide-1)の2つがあることが知られています。
GLP-1は食事に含まれる栄養素によって刺激を受け分泌されます。摂食によって上昇した血糖値に応じて、すい臓からのインスリン分泌を促進し、血糖値を上げる作用のある「グルカゴン」の分泌を抑制することで、食後血糖の上昇を抑える働きをします。また、腸への食べ物の排出を抑制する作用や、脳に働きかけて食欲を減退する作用もあります。

GLP-1には多様な血糖降下作用がありますが、分泌されるとすぐに「DPP-4」という酵素によって分解されてしまいます。分解されたGLP-1は、逆にGLP-1の作用を妨害してしまいます。「GLP-1受容体作動薬」は、その構造に手を加え、DPP-4による分解を受けにくくして作用を持続させた治療薬です。

【 GLP-1による血糖改善作用のメカニズム 】

GLP-1受容体作動薬の作用メカニズム

自己注射が難しい高齢者や要介護者、
忙しい社会人にとっても利便性が高い薬

GLP-1受容体作動薬には、1日1回または1日2回注射をするものから、週1回の投与で効果が持続する薬剤もあります。高齢者や認知症の影響で自己注射が困難な方には、徐放性のGLP-1製剤を処方し、外来や往診などで週1回投与することも可能です。インスリン製剤との併用が認められておりますので、インスリン量の減量およびインスリン投与回数の削減につながることも期待できます。

● インスリン治療中の認知症2型糖尿病患者様のケース

Aさん(70代男性・BMI 31.5kg/㎡)は58歳の時に2型糖尿病と診断を受けました。当院を初めて受診された際には、経口血糖降下薬とインスリン注射を用いた治療を行っており、前増殖網膜症を発症しておりました。加療中はHbA1c6〜7%台で安定していたのですが、70歳になり血管性認知症が進行しHbA1cが10%前後に悪化、独力での自己注射は困難となりました。
食事負荷試験を実施したところ、内因性インスリン分泌能が比較的保持されていたため(CPR4.60ng/ml)、外来にて週1回の徐放性GLP-1製剤の皮下注射を開始しました。
以後、経口血糖降下薬との併用でHbA1c 6〜7%台と血糖コントロールも比較的安定し、良い経過を続けております。
※ プライバシーに関わる箇所は一部脚色しております

<ポイント>
・ 2型糖尿病 インスリン分泌能が保たれている事
・ 認知症高齢者で自己注射が困難であった
・ 週1回の外来診療を欠かさず受診している

【 徐放性GLP-1製剤導入後のHbA1c値の推移 】

徐放性GLP-1製剤導入後のHbA1cの推移

※ 治療薬の効果には個人差があります。
※ 現在受診されている医療機関がある方は、まず主治医にご相談ください。

安全に、効果的に使用するために
〜 副作用と注意点 〜

GLP-1受容体作動薬は、血糖値の上昇に伴って作用するため(血糖依存性)、単独投与では低血糖発作をきたしにくいのが特徴です。食後の血糖上昇を抑制するため、血糖変動を小さくして心筋梗塞や脳梗塞などの大血管障害のリスクを抑えます。また、食欲抑制作用により体重減少効果も期待できます。非常に有用性が高い薬剤ですが、吐き気や下痢、便秘などの副作用が現れることもあります。継続して使うことで症状が軽減されますが、投与にあたっては有効性と安全性、個々の状態を十分考慮したうえで判断します。
インスリン分泌作用はあるものの、インスリンの代わりにはなりませんのでインスリン依存状態にあるか、非依存状態にあるかについて評価を行ったうえで使用の可否を判断する必要があります。

使用については、日本糖尿病学会で以下に注意するよう示されています。

  • インスリン非依存状態の患者に用い、インスリン依存状態(1型糖尿病など)への適応はない
  • 副作用として下痢、便秘、嘔気などの胃腸障害が投与初期に認められる。1日1回あるいは2回注射の製剤の場合は胃腸障害発言のリスクを回避するため、低用量より投与を開始し、用量の漸増を行う
  • 急性膵炎の報告があり、膵炎の既往のある患者には慎重に投与する。急性膵炎の初期症状(嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛など)について患者に指導しておく。胃腸障害が発現した場合、急性膵炎の可能性を考え、画像検査などによる原因精査を考慮するなど、慎重に対応する。急性膵炎が発言した場合は、本剤の投与を中止し、再投与しない
  • エキセナチドは、透析を含む重度腎機能障害のある患者には禁忌である
  • SU薬またはインスリン製剤との併用により低血糖の発現頻度が単独投与の場合より高くなるので、定期的に血糖測定を行う
  • エキセナチド週1回注射製剤では、注射部位の硬結、そう痒感などが5%以上の副作用として報告されている
  • インスリンに治療からGLP-1受容体作動薬に切り替える場合には、インスリン依存状態にないことを確認した上で慎重に行う

日本糖尿病学会 編・著 「糖尿病治療ガイド 2018-2019」 p.73 より抜粋